不登校になったからこそ得れた「何とかなる」という感覚 フリースクールSince 麻生さん

新しい生き方インタビュー

不登校という経験から「存在そのものが受容されている環境」を作りたいという思いを育み、滋賀県近江八幡市でフリースクール「Since」を運営している麻生さんにお話を伺いました。

麻生さんご自身の不登校の経験について教えてください

僕が不登校になった理由は、学校にいる自分を好きになれなかったから。

中学2年から休みがちになって、中学3年生のときは1度も学校に行きませんでした。

当時は野球部や生徒会で積極的に活躍していたので、周りの人から見ると充実した学生生活を送っているように見えたのでしょう。

友人からは僕が不登校になる理由がわからないと言われました。

しかし僕自身は、学校内の「カースト」というものを強く感じていて、カーストの下層に行かない様に「周囲が僕に求めるイメージ」に迎合しようとしていました。

「周囲の人が求める自分」を演じているだけで、学校というコミュニティに「ありのままの自分が、正しく所属できていない」という違和感がありました。

不登校になってからどのようなことを感じましたか?

「社会からはずれてしまった」「所属がなくなった」と強く思いました。

学校に行っていないだけなのに、「自分自身が生きていない」「自分の将来がだめになった」「自分の人生が終わった」「レールが無くなった」と感じました。

当時の僕にとっては、学校が全てだったのだと思います。

子どもにとって学校が占めている割合はとても大きくて、学校と「ちょうどいい」という距離感を保つのが難しいと感じました。

「普通に学校に行っている人達」と「不登校の僕」との間には、「あっち側」と「こっち側」という大きな溝を感じました。

でも、僕が不登校になってからも、今まで通り関わりを持とうとしてくれた友人のおかげで、完全に孤立することはなく、高校へ進学する選択をしました。

フリースクールSinceの玄関

中学を卒業した後はどのような道に進みましたか?

不登校の子が多く在籍している全日制の単位制高校に進学しました。

僕と同じように苦しんでいる人が多かったですが、同じ立場の同級生は、やさしく信頼できました。

家に一人でいると「将来への不安」を直視せざるを得ないのですが、同級生と会うことで楽になりました。

僕は少しずつ自分自身を出すことができるようになりました。

新しい友人ができて、「所属意識」や「承認の欲求」が次第に満たされていきました。

そういった要求が満たされる中で、「どういった自分になりたいのか?」ということを考えることができるようになりました

そして「自分が求めている自分」は、「努力できる自分」「やりきれる自分」なのだと思い至りました。

それを叶える手段として勉強に励み、自身の経験を役立てたいと教育学部を目指しました。

不登校を経たことで得たものはありますか?

僕にとって、不登校は「必要な時期」だったと思います。

芋虫がさなぎになって、蝶になるための時間。

学校って問題なく通学できていれば、「何となく安泰」という雰囲気があると思います。

学校に行っていれば「とりあえずOK」で、「やっている感」ってありますよね。

僕自身は不登校になって、そういった「なんとなく、とりあえず」という雰囲気から飛び出しました。

自分で「やばい場所」に来たと感じたからこそ、自分で考えるということができるようになったのだと思います。

その過程で「何とかなる」「何とかなるんじゃないか」という楽観性とチャレンジ精神を得ることができました。

それがフリースクールを起業しようという大胆さに繋がっているのだと思います。

就職せずに起業するのと、学校にいかない、という選択はどこかで似ている感覚があって、僕はまたそこに飛び込もうとしたのだと思います。

インタビューの様子

昔の自分に伝えるとしたらどのような言葉をかけてあげますか?

「大丈夫だよ」と言ってあげたい。

不登校だったからこそ「得られたもの」「得られた友人」があるよって伝えてあげたいです。

NPO法人Sinceを結成した経緯について教えてください

「不登校の子に何かできることはないか」という思いで、滋賀大学教育学部に進学しました。

大学で出会った仲間3人と、Sinceを結成しました。

「学校は楽しかった」「先生になりたい」と思っていた生鷹

「他の選択肢を知らなかったので、学校に行くしかなかった」と感じていた門脇

学校に対する想いがそれぞれ違う3人が出合い「学校以外にも活路がある社会を作りたいね」と語り合っていました。

4回生になって内定も得ていましたが、僕らはやらない後悔よりも、挑戦しワクワクする方を選択しました。

「Sinceを立ち上げること」は必然だったのだと思います。

「富士山までヒッチハイクで行ってみよう!」と思いつきで挑戦したこともありました。

そういった挑戦を達成できたことでも「何とかなる」という精神が育まれました。

僕一人ではSinceを生み出すことはできず、仲間がいたからこそできたのだと思います。

1人ぼっちで航海するのと、3人の仲間と航海するのでは全然違います。

学校への思いが「三人三様」だった僕たちだからこそ、フリースクールをやる意義があると確信しています。

学校とはどのような場所だと思いますか?

学校は教育学の結晶が詰まった場所であって、ある程度のクオリティの経験を得ることができるので、学校に行く意味はあると考えています。

ですが、必要とされるプログラムを機械的にこなすだけになってしまうと、学校は「つまらない場所」になって、居場所を見つけられなくなります。

用意されたプログラムが、子どもによって「合う」・「合わない」があるのだから、僕たちはいろんな評価軸を持つべきだと考えています。

こだわりが強い子供もいるし、すごく尖っている子もいる。

発達障害の子もいれば、すごく成熟した子もいる。

おとなしい子も、攻撃性が強い子もいる。

色んな子ども達がいて「全部いいんちゃう?」という感じ。

Sinceで大切にしていることを教えてください。

「ここにいていいんや」と感じてもらう為に、「多様をとことん受け入れる寛容さ」を大切にしています。

また「自分の欲求を外界に働きかけて、それが成された」という経験をしてもらいたいと思っています。

「自分でできる」という体験の積み重ね、それがそれぞれの自信に繋がりますし、それが発達だと思っています。

僕自身がそういったことが積み重なって、自己実現の段階に到達したと感じています。

Sinceのクラスに貼られていた学習の様子

不登校の子どもを持つ保護者の方は悩んでおられますが、その悩みについてどのように感じていますか?

子どもが不登校になったのが「自分の育て方」のせいかもしれないと思い、自分を責めてしまっている保護者の方が多いのではないかと感じています。

僕の場合は、不登校になったのは僕自身の課題であって、親のせいではありません。

この部分を分離できないと、子どもは親が苦しんでいることに気づいて、親と子どもが「お互いに苦しみあってしまう」ことに繋がると僕自身の経験から知っています。

今のSinceの活動は、サービスの対象を子どもに集中しているので、「保護者の方の気持ち」の部分までは十分に介入できていません。

ただSinceを通じて、保護者同士が繋がることで、保護者同士の助けあいが増えているのは感じています。

ここに来ている保護者の方は、色んなことを悩んで、学んで、乗り越えてからここに辿り着いている方が多いです。

そういった保護者の方が重視するのは「子どもの選択」です。

Sinceが目指すのは「保護者が行かせたいフリースクール」だけでなく、「子どもが行きたいフリースクール」ですので、僕たちは子ども達がやりたいことをさせます。

「子どもが行きたい気持ちを応援したい」というスタンスで関わってくれる保護者の方が多いです。

左から  門脇さん  麻生さん  生鷹さん

これからどのように事業を展開していきますか?

以前はメンバーそれぞれが児童相談所などで夜勤をしながら運営していました。

今は夜勤を辞めてSinceに注力しているので、資金面はぎりぎりで、共同生活を送りながら貧乏生活をしています。

経営を安定させていくために、不登校でない地域の子ども達も参加できるプランを模索するなど、試行錯誤を繰り返しています。

不登校の時に感じた「何とかなる」という感覚を信じて、現場から生み出された目の前の課題と向き合って解決していきたいと思っています。

NPO法人Since   https://since.or.jp

Sinceへのご寄付はこちらから  https://since.or.jp/donation

NPO法人Sinceが、2023年9月24日(日)に近江八幡市にある『G-NETしが』にて、不登校フォーラムを開催します。

目的としては、不登校の当事者・経験者・保護者の3者の視点からお話をしていただき、不登校のことについて知ろう!というものになってます。

ご興味のある方は、下記をご参考ください。

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