「何を見て、何を選んで、どうするかはあなたの自由」NPO法人日本予防医療ネットワーク 綿貫智香さん

新しい生き方インタビュー
プロフィール

綿貫智香(わたぬきともか)さんは、1974年生まれ 。
作業療法士として15年間勤務し、精神科分野・身体障がい分野・老人分野・小児分野と広く臨床現場に携わってこられました。

多くの医療職・介護職との協働の中で、対人援助職の心の状態の改善こそが、社会全体の向上に繋がるという思いから、「NPO法人日本予防医療ネットワーク」を立ち上げ、代表理事として活躍しておられます。 (現在は「株式会社MBSカウンセリングセンター」の代表取締役としてご活躍中。NPO法人日本予防医療ネットワークは解散)

また、「心と身体の健康」に携わる中で、「なぜ治らない病気があるのか?」「なぜ消えない痛みがあるのか?」ということを探求し、現在はカウンセリングなどを通じて心の健康を取り戻すことで、人々が抱える困難にアプローチしておられます。

資格:作業療法士、キャリアコンサルタント、MBS統合メソッド®認定カウンセラー・認定講師、DiSC®認定講師、米国NGH認定ヒプノセラピスト他

対人援助職の心の状態について

作業療法士として現場で対応される中で、どのようなことを感じられましたか?


「とても優秀な人が倒れていく。」ということを強く感じました。

医療介護現場では、看護・リハビリ・介護といった全く職種の異なる人が、一緒になって働きます。

その中でも介護職は日常のあらゆる支援をするので、身体的・精神的に負担が大きく、また他職種との連携を意識しなくてはならず、かなり辛い思いをしておられる方がいると思います。

看護師・療法士も同じように大きな責任と仲間との軋轢、理想と現実のギャップなどで苦しんでいる方がたくさんいます。

中間的な立場にいてる人は更に大変で、人手が足りていない時は、10日連続の勤務などたいへんな体制で働いておられる方がたくさんいらっしゃいます。

大きな責任を任されているので、仕事を抱え込んでしまい具合が悪くなってしまう人もいます。

同じ様なことは、教育職や管理職の方などにも当てはまります。

職場で辛い思いをしていて、それに対応するのは 個人の力量を超えていることが多いと思います。

対人援助職の場合、人の援助をする職種ですので「自分のことは自分で診れるでしょ」という雰囲気があります。

でも、目の前の膨大な仕事に精一杯で、自分のことはおきざりになりストレスが溜まっていきます。

また、個別に患者さんと向き合うことが多いので、集団で何かをするということはめったになく、お互いの連携が取れなくなって関係性がばらばらになってしまいます。

そうなると一人一人の心はやっぱりしんどくなっていきます。

企業側が「心身の健康のケア」の意識を持っていないか、持っていたとしても本人任せになっているのが現状です。

教育という面でも介護職の方は十分な体制下にあるとは言えないと思います。

介護職には本当に色々なバックグランドの方がいらっしゃいます。

50歳~60歳の方もたくさんいらっしゃいますし、かと思えばバイト感覚で入ってくる20代の人もいます。

教育をほとんど受けていない職員の方もおり、知識不足から意思の疎通が取りにくく、他の職種の方とのコミュニケーションがうまくいかないという事が発生しています。

対人援助職の方が働きやすい環境を作るにはどうすれば良いと思われますか?

このような心のケアや教育というものは、個人で対応できる部分は少なく、企業は苦しんでいる職員の方と一緒になって本気で取り組む必要があります。

会社が 「誰もが働きやすい環境を創ることの大切さ」を、もっと実感を持って認識して欲しいと思っています。

先日もこんなことがありました。職員同士がいがみあってしまい、人間関係を取り戻すことができなくなり、集団で退職されたという事例です。

こういった場合辞めて人手が足りないところに、急に人を採用したところで、職場自体がごたごたしており根本的な解決がなされていないので、また新しく入った人がしんどくなり辞めるということになります。

こういったことを改善することは、働いておられる職員の方はもちろんのこと、なによりも利用者さんの安心にも繋がります。

認知症の方などは慣れない人が対応すると混乱されることがあります。いつも人が入れ替わっている施設では、この人だったら安心という気持ちを持ってもらうことは難しいと思います。

また企業側からみると採用だけで多くの費用が掛かっており、せっかく時間を割いて教育し、一人前になったとたん人間関係の悩みで辞められてしまうと損失は計り知れません。

具体的にはどのような取り組みが必要でしょうか?

私は作業療法士として働いてくる中で、「心」と「身体」の両面の課題に取り組んできました。

その中で、認知行動療法のスペシャリストとして 「心」の問題ついて、様々な方の辛い思いをお伺いしてきました。

カウンセリングについて学ぶうちに、「自分の本当の力が出てくるカウンセリングは、対人援助職こそ受けるべきだ」という強い思いが沸き起こり 「日本予防医療ネットワーク」というNPO法人を立ち上げました。

NPO法人の事務所エントランス

チームの中でお互いの言葉やペースが異なると、人は話す気になれません。また、同じ年代で同じ環境でも、人の感じ方は千差万別です。

相手の行動からその人が大事にしていることを理解することがとても大切です。

最初はわずかなすれ違いだったことが、時間が経つにつれ、この人はこういう人だという思い込みに変わってしまいます。

するとその人が何気なくやったことに対し、「意地悪をされた」と思ってしまいます。

更にはこの人は私を批判する、もう一緒にいたくないという感情が強くなってしまいます。

この様なことが発生しないように、人を否定的に判断してしまわない為の「共通言語」を作り、「相手の大切にしていること」を理解することが必要です。

私たちのNPO法人では、この様な問題を解決するためのセミナーを開催しています。

セミナーの様子

また、それぞれの特徴を理解したとしても、個々で触れ合う中で様々な感情が沸き上がります。

感情は「怒り・傷心」「不安」「恐れ」「罪悪感」「恥」「喪失感」「落ち込み」が組み合わさってできています。

この様な感情の「意味」が分かれば、それを前に進むエネルギーに換えていくことができます。

例えば「怒り」の感情は、自分が大切にしている価値観を損なったというところから来ます。

でも自分が何を大切と思って生きているかについて、きちんと認識していない人も多いです。

そこから「怒り」の感情が発生すると、怒りっぱなしになってしまいます。

そこで、自分が大切にしている価値観を認識し、自分がなぜそれを大切にしているのかということをカウンセリングで確認していきます。

それが分かることで、なぜ自分がその人に対し「怒り」の感情を持ってしまうのかということが分かると同時に、自分の価値観を深く認識することで、その人の「生きる目的」が見えてきます。

それが見えてきたことにより、怒りを起こさせる「他者」に対して、あえてそういう道を見せてくれた。そのお陰で僕はそれに気づくことができた、という考え方ができるようになります。

もしその人がいなかったたら、僕はそういったことをずっと気付かないままで、平凡な人生を送っていたかもしれない。と考えることで、自分に「怒り」の感情を起こさせたその人は、無くてはならない存在となります。

カウンセリング前は怒りの対象だった「他者」に対し、 「感謝」と「愛」の感情が自然な形で湧き上がってきます。

認識が変わると不思議と相手も変わります。相手を変えよう変えようとしていても相手は変わりません。

それは自分の押し付け。でも相手を変えようと思わなくなった瞬間に相手が変わるのです。

更にセミナーでは、そういった成長を遂げたことにより、あなたは何をやりたいの?ということを考えます。

自分の人生の目的(最高価値観)を見つけて生きていく。社会全体がそうなったら、すごいと思います。

経済的なことなどを超えて、それぞれが自分の好きな充実感を得て自立し、お互いが尊重し合えるようなそういう社会になっていけばいいなと考えています。

綿貫さんの最高価値観はどういったものですか?

「みんなと楽しく遊ぶ」っていうこと。仕事は最高の遊びだと思っています。

「こんなみじめな人生」って思っている人が非常に多いと感じます。

本当はそうではなくて、どれもこれも自分が「デザインした人生」で、この世界には全部材料は揃っているんだと思っています。

その中で自分が何を見て、何を選んで、どうするかっていうのはその人の自由。

でもそれを選ばされているとか、私はこれしかできないとか、自分で選択を狭めちゃっている。本当はどれでも選んでいいのに。

私は人というものが好きです。

誰かに苦しいことが起きたら、その苦しみも実はものすごく価値のあるもので、その反対側をもう一回見てみようよと言ってあげられる。

そういう社会を仲間と一緒に創造していけたらと思っています。

セミナーでの綿貫さん

NPO法人 日本予防医療ネットワーク
大阪府枚方市 東田宮 1-3-21 藤本ビル5階 ( 京阪本線・枚方市駅より徒歩10分 )
(現在は株式会社MBSカウンセリングセンターとなり、日本予防医療ネットワークは解散)

綿貫さんお勧めの本

五つの傷―心の痛みをとりのぞき本当の自分になるために リズ・ブルボー (著)

〈からだ〉の声を聞きなさい―あなたの中のスピリチュアルな友人  リズ・ブルボー (著)

編集後記

綿貫さんのイメージを一言でいうならば、”心のスペシャリスト”でした。

特に「怒り」の感情のメカニズムのお話の中で、 「怒りの感情は自分の大切に思っている価値観を損なったところから来る。でもその自分の価値観を理解していない人が多い」ということを聞いたとき、どきりとしました。

人との関わりの中で、怒りの感情を持ってしまうことはどうしてもあると思います。なぜあの人は分かってくれないのか!という気持ちは、本当は自分だけの価値観によるものだとは・・・。

心に手を当てて考えてみると、確かにそうだった!という気づきに驚きました。

労働人口の減少や定年の延長などが進む中で、様々な年代や様々な国籍の人が一緒に働く機会が今後増えていきます。

価値観が多様化する中で、相手が大切に思っていることと自分が大切に思っていることをお互いに尊重し、仲間として共に働いてくことが本当に大切だと思います。

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