Folkuniversitetetは、スウェーデン国内外の約100か所で公教育と成人教育を実施しており、ストックホルム大学、ウプサラ大学、ヨーテボリ大学、ルンド大学、ウメオ大学の5つの財団による協会です。
今回お話を伺ったElsa Costes氏は、スタディーサークルリーダーの育成を担当しており、その役割やスタディーサークル運営時の留意点について教えていただきました。
Elsaによれば、スタディーサークルリーダーの役割で最も大切なことは「リーダー自らが前に立って何かを教えるのではなく、スタディーサークルに参加している全員が、お互いに影響を与え合うような状態を作り出す」ということです。
さらに、「時間をかけてお互いの違いについて話すことで、私たちはお互いを理解し始めることができる。その違いを乗り越えてお互いの妥協点を探ることが、民主主義の実践である」とも教えていただきました。
(以下 Elsa談)
Folkuniversitetetについて
Folkuniversitetetは、英語学習コースを提供しているスウェーデン最大の機関の1つです。
また、芸術や文化に関する多くの取り組みを行っており、写真・美術・ファッション・アニメーションなどを学ぶことができます。
私たちの組織は、政治的利害、宗教的利害、商業的利害によって支配されておらず、自分達の活動を完全に自由にデザインできます。
また、私たちは行政とも協力しており、様々な理由で仕事ができなくなった人々に向け、職業訓練も実施しています。
例えば、病気やケガあるいは精神的に燃え尽きてしまった方に対して、再び働けるようにトレーニングの場を提供しています。
様々なプログラムを作成するにあたって、個人に焦点を当てることが非常に重要で、個人のニーズからコースを作成するように努めています。
そして「知識が変化を生む」ということについて、人々にもっと知ってもらいたいと常に考えています。
スタディーサークルリーダーの役割と「参加者の影響力」について
ではスタディーサークルについてお話します。
スタディーサークルにとって非常に重要なのは「自発的でなければならない」ということです。
誰もあなたにスタディーサークルへの参加を強制することはできません。
「私が学びたい」「私がこのスタディーサークルに参加したい」といった気持ちが大切です。
次に重要なのは、「参加者の影響力」(participant influence)が必要であるということです。
例えば、スウェーデンの運河を分析するスタディーサークルを始めるとしましょう。
まずは「その研究をどうやって進めるのか?」というところから始まります。
あるメンバーが「運河の歴史」についてもっと知りたいと言ったとき、他のメンバーが「ノー」と言うかもしれません。
また、ある人は「運河の仕組み」について、他の人は「運河が環境に与える影響」について知りたいと思っているかもしれません。
参加者全員が運河について話したいと思っているものの、学びたい内容には「異なる視点」があります。
そこで必要なのは「話し合い、歩み寄る」ことです。
スタディーサークルは、オンラインでコースを受講するのとは異なります。
私たちはここで新たにスタディーサークルを作り上げるのです。
スタディーサークルの最初のセッションで、何をするかは非常に重要です。
私はいつもスタディーサークルの初めに、メンバーと話し合い協力して「グループのルール」をみんなで考えることを勧めています。
そして、一緒に何を学びたいか、またそれをどのように学びたいかを決定します。
ここで大切なのは、誰もが「自分のニーズを再認識できる」ということです。
メンバー全員が自分のやりたいことを表現できる環境を作るために、スタディーサークルを創造し、管理することが重要です。
その上で、参加者同士の合意を得るためには「妥協」が必要で、他の人が「何か異なることを望んでいるかもしれない」ということを尊重する必要があります。
そうしないと、何もできなくなってしまうからです。
意見が異なる場合、どちらかが正しいとか間違っているというわけではなく、異なるアプローチとニーズがあるだけです。
民主主義は妥協であり、私たちが成し遂げたいことを、どのように一緒に決定するかに関わっています。
そして、それには「訓練」が必要です。
スタディーサークル内で、それぞれの異なるニーズを表現できるようにすることで、「他者性」(otherness)についての会話を始めることができます。
フランスの哲学者は、「社会が自らを刷新することを拒否し、閉ざされ、他者性を受け入れなくなった日、民主主義は滅びる」と述べています。
これは6000年前のアテネでも起こったことです。つまり、民主主義にとって、新しい人材や新しいアイデアを常に受け入れる姿勢が重要なのです。
説明し合い、土壌を作り、時間をかけてお互いの違いについて話すことで、私たちは理解を深め始めることができます。
全員を100%満足させることは難しいです。これは民主主義の本質でもあり、妥協が必要です。
これを「民主的会議方法」と呼び、コンフリクト(衝突)が生じた際に、他者にどう反応するかを学びます。
何が起こっているのか、私たちはどうしたいのか、なぜそうなるのかを理解することが重要です。
これはグループのプロセスや機能に関わる重要なテーマです。
スタディーサークルはグループワーク
スタディーサークルの鍵は「グループで集まること」と「継続性がある」という点です。
これは数回の集まりかもしれませんし、1年を通じて継続する場合もあります。
スタディーサークルの重要なポイントは「グループが定期的に集まる」ということです。
なぜなら、「グループで何かを始めることで、何かが起こる」からです。
一度だけの集まりでは、この「民主的なエクササイズ」は実現しません。
一度会っただけでお互いにイライラが生まれると、その後は話し合いが進まなくなり、次のミーティングの調整も難しくなります。
ノーマルであるという立場
次に「norm」(標準)について考えてみましょう。
「norm」は、私たちが社会の中で「普通」と考えている事柄です。
自分がnormの中にいるとき、他者の立場を理解するのは難しいものです。
これは、水の中の魚のようなもので、自分がいるべき場所にいると感じているからです。
例えば、私は白人であり、ハウスブロンドで、スウェーデンに住んでいます。
そのため私は「あなたは本当にスウェーデン人ですか?」と尋ねられることはありません。
しかし、外見を見ただけで「あなたはどこから来たのですか?」と問われる人は多くいます。これは、normから外れているときの受ける質問です。
スタディーサークルにおいては、「normの中にいない人が存在する」ことを忘れないことが重要です。
たとえば、スウェーデンでは「スウェーデン人は白人である」と考えられがちですが、実際には白人ではないスウェーデン人も多く存在します。
また、私たちはADHDや自閉症を持つ人々についても考慮する必要があります。
多くの人は、「座って自分のことができる」という前提で考えているかもしれませんが、集中力に問題を抱えている人もいるかもしれません。
そうした状況において、私たちは「他者のニーズや理解を受け入れる」ために、自分自身を少しずつ適応させる必要があります。
再度言いますが、それは他者性についての問題であり、他者の異なる経験やニーズ、そして世界に対する理解を受け入れることを意味します。
これは非常に難しいことかもしれません。
しかし、私たちは挑戦し続ける必要があります。他者を受け入れ、彼らが参加できるようにする努力を怠らないことが大切です。
スタディーサークルについての質問
新しい参加者が参加することは問題ないですか?
もちろん大丈夫です。ただし、そういった場合は、既存のグループをどう調整するかを考える必要があります。
新しい人をグループに受け入れることは、時に難しいことです。
「グループにはフェーズがある」という考え方を聞いたことがありますか?
グループが存在すると、そのグループはさまざまなフェーズを通過します。
最初はグループのスタート段階で、誰もがグループの一員になりたいと思っていて、参加者はとても積極的で、スタディーサークルが民主的な運営になるように意欲的です。
第2のフェーズでは、メンバーが自分の役割を見つけようとします。
しばらくグループに所属してみて「このグループから何を得られるのか」「グループに残るべきかどうか」を考える時期です。
ここで多くの対立が生まれることもあります。
第3のフェーズでは、グループは本来目指していた状態に到達します。
このフェーズではすべてがうまく機能しており、コミュニケーションが取れ、役割を柔軟に変えながら互いを受け入れることができています。
しかし、新しい人が入ってくると、グループは最初のフェーズに戻ってしまうことがよくあります。
私たちはそのことに気づかないかもしれませんが、その新しいメンバーがグループに順応することは、その人にとっても私たちにとっても非常に困難です。
新しいメンバーが加わることで、グループはまったく新しい状態となり、最初のフェーズからやり直す必要が出てきます。
私たちは最初に立ち返って、今のままでいいのか、それとも何か変えるべきことがあるのか、また新しいアイデアがあるのかを話し合う必要があります。これは覚えておくべき重要なことだと思います。
新しい人を受け入れると、その人が新たな何かをもたらすかもしれません。
彼らは別のサークルで長年活動してきた経験を持っていて、「このようにやるのはどうだろう?」と言うかもしれません。
そんな時、私たちは「いや、私たちは変えたくない」と感じるかもしれませんが、時には変化も良いことです。
「新しいことに挑戦してみようかな」と思うことが、グループに新たな何かをもたらすかもしれません。
だからこそ、新しい人が入ってくることは大切なのです。
スタディーサークルはどれくらい続けるのが一般的ですか?
スタディーサークルの期間は、グループの目標やサークルの種類によって決まります。
例えば、1カ月に5回だけ集まって終了するスタディーサークルもあれば、週に1回集まって1年間続くもの、あるいは1カ月に1回集まって1年間開催するスタディーサークルもあります。
また、20年間続いているものもあります。私たちのバンドは5年間続いています。
例えば、2カ月間スタディーサークルを開催して、それが終了した後に新しいスタディーサークルを始める場合、同じメンバーが参加することもあるかもしれません。
その時には、再度私たちが何を学びたいのか、そしてどのように学ぶのかを考えることが重要になります。
多くの日本人は仕事に多くの時間を費やしていますが、他に人生の中心になるものはあるのでしょうか?
私は週に3回音楽を演奏しています。
また、市民社会のさまざまな団体に関わり、政治的なイベントなどにも参加しています。
家族も大切ですし、本を読んだり、映画を見たり、コンサートに行ったりと、楽しい生活を作り出す時間もあります。
一方で、仕事は私にとって非常に重要です。
私は自分の仕事が大好きで、その仕事に取り組むことで「変化」を生み出していると感じています。
私は人々を助けることができると信じています。
しかし、それが唯一の手段ではないとも思っています。社会を少しでも良くするためには、楽しむことも必要です。
仕事に集中しすぎると、市民社会と関わる時間や、他のことについて考える時間がなくなってしまいます。
例えば、劇場に行ったり、映画を見たり、様々なことを考える時間を持つことで「どのような社会に住みたいか」「社会をどう改善できるか」を考えるきっかけになります。
もし私が常に仕事に追われていたら、そういったことを考える時間はありません。
私の家族は別の国に住んでいるので、頻繁には会えませんが、私は休暇をたくさん取ります。
通常の5週間の休暇に加えて、無給でさらに多くの休暇を取ることもあります。
その時間を使って家族と過ごしたり、スキーをしたり、犬と遊んだりすることも、私にとっては非常に大切なことです。
私たちは日本が「非常に階層的である」というイメージを持っています。
自分自身を捧げる文化は、ここスウェーデンにはあまり存在しません。
例えば、17時には仕事を終えて、家に帰ります。
仕事は私の人生の中心ではないのです。
「17時に仕事を終える」のは、私が家に帰らなければならないからです。
スタディーサークルが日本でも広がることにより、日本がよりよい場所になるように感じます。スタディーサークルが社会をよりよいものにする仕組みについて、Elsaはどう思いますか?
これはどのような社会を求めるかによると思いますが、私はお互いに疑問を持ち、自由にディスカッションできる可能性のある社会に住みたいと考えています。
スタディーサークルはそのための「organizing yourself」の場でもありますし、国家から独立していることが重要です。
極端な例として、環境問題について自由に議論できず、自由なメディアもない国家を考えてみてください。
メディアを通じて十分な情報が提供されず、意見が統制されている状況では、市民は自らを「organize themselves」して「私たちは環境問題について学び、話し合いたい」と声を上げるかもしれません。
このようにして、「organize ourselves」の権利が社会に根付き、表現の自由が保たれることが、民主主義の重要なpillars(柱)になります。
団体や組合、政党などを組織することも非常に大切です。
なぜなら、そうした組織は対抗勢力となり得るからです。
例えば、ABF(スウェーデンのスタディーサークル協会の1つ)は労働者のバックグラウンドを持つ団体で、多くのスタディーサークルを運営しています。
これは、働いている人々がより高いレベルで、民主的な課題に関与することを促進します。
特定の職業や専門知識を持たない人でも、スタディーサークルを通じて、たとえ自分の専門外であっても公共の問題について議論し、理解を深めることができるのです。
スタディーサークルでは、異なる意見を持つ人々と話し合うことで自分の視野を広げ、最終的に自分の意見を形成する助けになります。
そして、その意見が形成される過程で、自分がなぜそのように考えるのか、他者との対話を通じて深く考えることができるのです。
スタディーサークルの本質は、ただ座って聞くのではなく、「互いに影響を与え合う」ところにあります。
参加者同士が意見を交わし、自分の考えを述べることで、社会に対する理解が深まり、民主的な社会の形成に貢献していけるのです。
なぜ学習には「対等性」が必要なのでしょうか?
ヒエラルキーが存在するとき、「誰が力を持っているのか?」という点について自問する必要があります。
たとえば、スウェーデンは400年前、ヨーロッパで最も「不平等な国」のひとつでした。
1921年以前、国の富の大半をわずか5%の人々が所有し、彼らだけが投票権を持っていました。
その少数派が、国全体の意思決定をしていたのです。
しかし、なぜ彼らが「私たち全員のために決める権利」を持っていたのでしょうか?
私たちは、この状況に疑問を抱き始め、すべての人が「平等に代表される」必要があると気づいたのです。
すべての人々が同じ政府のもとに生き、同じ税金を払っているのですから、議会やメディア、学校の教室など、あらゆるレベルで「人々が平等に代表される」必要があります。
さまざまなグループから代表が出ることで、それぞれの関心事を議論し、共有することができます。
たとえば、女性が議会にいないと、女性の要求やニーズを知ることができず、男性だけで女性の人生について決めることになります。
なぜ「女性であること」について何も知らない男性が、決定を下すのでしょうか?
この問題についての素晴らしいエクササイズがあります。
教室の中央にゴミ箱を置き、参加者がその周りに座って紙ボールを持ち、ごみ箱に投げていれるというゲームです。
ゴミ箱に近い人にとっては簡単ですが、遠くに座っている人にとっては難しいです。
遠くに座っている人の中には、ゴミ箱自体が見えない人もいます。
このエクササイズは、誰もが「平等な機会を持つべきだ」ということを象徴しています。
中には腕を骨折していたり、他の理由で不利な立場にある人もいるかもしれません。
最初からみんなが同じ条件でスタートしているわけではないのです。
そんな時は、互いに助け合うことが必要です。
これは、単なるゲームの話ではなく、社会の縮図として見ることができます。
私たちは、他者の状況やニーズが自分と同じでないことを理解し、その上で行動することが求められています。
また、自分自身が持っている特権や恵まれた環境に気づくことも大切です。
例えば私が何かを言ったとき、有色人種の人がそれを「人種差別的だ」と指摘したら、私はそれに耳を傾けるべきです。
私はその立場にいないので、その感覚を完全には理解できませんが、それでも相手の言葉を尊重する必要があります。
「社会で十分に代表されていないグループ」に対して、彼らの声を尊重し、権力にアクセスする権利を保障しなければなりません。
そうでないと、常に同じ少数の人々が「他者を代表する」ことになり、不公平が続きます。
スウェーデンの社会や制度は、すべての人に声を持たせ、民主主義の原則を守るために努力しています。
このような民主主義を保つためには、絶え間ない取り組みが必要です。
さもないと「常に同じ人が他の全員を代表」します。
権力を持っている人のほとんどは、その権力を手放したくないのです。
だからこそ、すべての人には声があるという原則を守り「地球で最も裕福な人が、すべてを決めることはできない」という民主主義を守るべきなのです。
教育もその一環です。学校での学びに加え、生涯を通じて自己を教育し続けることが、理解を深める鍵となります。
13歳の頃に学んだ知識だけで、社会問題に対処することは難しいです。
社会の問題意識や課題も、時代とともに変わっていきます。
私たちは学生時代に学んだ後、突然就職し仕事を持ちます。
あなたには子供ができ、マイホームを購入し、銀行への住宅ローンの支払いに追われることになります。
あなたは自分と自分の小さな家族のことを考えるだけで、精一杯になってしまうかもしれません。
それが普通のことです。
しかし、民主主義・マイノリティ・社会の問題について絶えず議論し続けることが大切です。
それが平等な社会の実現につながります。
ユートピアはできます。私達は探し続けます。
しかし、実際にはそこに到達することは決してありません。
なぜなら、常に新しい挑戦が必要になるからです。
スタディーサークルは、このような社会的課題について人々が集まり、意見を交換し、共に学び合う場として重要な役割を果たすでしょう。
それは、私たちが前進し続けるための道筋です。
完璧なユートピアを実現することは難しいかもしれませんが、それに向けて探求し続けることが重要なのです。
NPO法人スノック所属。大阪府枚方市在住の40代。
趣味はタッチラグビー・野菜作り・北欧の照明
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